精神神経疾患は非常に頻度が多い疾患であり、うつ病の生涯有病率は100人に7.5人、統合失調症は約100人に1人といわれています。そのうえ、疾患に罹患することによって生じる生活上の不利益や社会経済上の損失ははかりしれません。また日本は超高齢化社会に突入し、結果として現在400万人が認知症に罹患しているといわれています。とくにその中でも精神症状の強い認知症は、患者さんご自身および介助者の大きな負担となっており、社会問題となっています。このため、精神神経疾患の原因解明・治療法の開発は、医学的にも最重要課題の一つであるといえます。
現時点で、精神神経疾患の病態・病因はいまだ全容が解明されておらず、いくつかの仮説はすべて動物実験等に基づくものがほとんどで、ヒトの精神神経疾患の脳研究には限界がありました。そのため、近年、死後の脳組織研究(死後脳研究)が持つ重要度が再認識されています。死後脳研究においては、体系的に神経病理学的研究、分子生物学的な研究、遺伝学的研究などの基礎研究を行い、精神疾患の病因・病態解明、治療手段の開発(治療薬、遺伝学的治療、分子生物学的治療、免疫ワクチン療法など)につなげ得ると予測され、その貢献度は非常に高いとかんがえられています。
愛知県精神医療センターでは、従前より死因解明および死後脳を使用した研究のため、生前同意およびご家族の承諾を得て、死体解剖資格を有する医師が病理解剖を行っています。
病理解剖で得られた脳を含む組織検体は、標本化されているもの、標本化されていないものを含め数十年前より院内で保管されており、医学的に非常に貴重な資料です。これら病理解剖で得られた脳を含む組織検体を系統的に保存するため、当センター倫理審査委員会の審査を経て「愛知県精神医療センターブレインバンク」(統括責任者:愛知県精神医療センター院長)として保存システムを確立中です。
ブレインバンクでは他の研究者と力を合わせて網羅的に研究・解明することを目的としています。現在、当センターは名古屋大学精神科コンソーシアムに参画し、東海地区でのブレインバンクネットワークを通じて共同研究機関での精神神経疾患・認知症性疾患の原因解明・治療法の開発に協力しています。
病理診断終了後に保存された組織は検体番号としてブレインバンクデータベースに登録するため、データベースから個人情報が漏洩する危険性はありません。また、ブレインバンクに寄託された検体を医学研究者に提供する際は検体番号で提供いたします。提供対象の医学研究者は、名古屋大学、愛知医科大学を主とした共同研究機関です。(共同研究機関は今後変更・追加されることがあります。)
ご不明な点がありましたら、当センター担当者、または名古屋大学精神科コンソーシアム担当者までお尋ねください。
参考 死体解剖保存法

名古屋大学精神科コンソーシアム(名古屋大学医学部付属病院精神科: 鳥居洋太、入谷修司)
愛知県精神医療センターブレインバンク: 統括責任者 高木宏、担当者 羽渕知可子